「ロスト・イン・トランスレーション」をご存知であろうか (ビル・マーレイ主演、ソフィア・コッポラ監督)。来日した映画スター(マーレイ)がサントリーウイスキーの宣伝を撮影するシーンである。通訳を介して日本人監督とやり取りする場面は面白い。 通訳は、長々と語った監督の説明を一言の英語で済まそうとする。真剣に理解しようとするマーレイは、「あれ? 監督はもっと長くしゃべっていたように思ったけど…」と困惑する。
CMディレクター: ミスター・ボブさん、あなたは書斎にゆっくりと座っています。そしてテ-ブルの上にはサントリーウィスキーがあります。わかりますね! 感情を込めて。ゆっくりとカメラを見て。やさしく。そして、あなたの古い友達に会うように。言ってください、カサブランカのボギーのように。
「君の瞳に乾杯。サントリータイム」
日本人通訳: Um, he wants you to turn, look in the camera. Okay? (彼は、振り向いてカメラを見ていただきたいそうです。よろしいでしょうか?)
Bob: That's all he said? (彼が言ったのはそれだけ?)
日本人通訳: Yes. Turn to camera. (そうです。カメラの方を向いてください)
Bob: All right. Does he want me to turn from the right or turn from the left? (そうですか。右からと左から、どちらから振り向けば?)
日本人通訳: あのー、彼の方はもう準備ができています。それで、あの、スタートがかかったときに、カメラの方に振り向くときに、左から振り向けばいいのか、右から振り向けばいいのか、そのへんのところはいかがなさいましょうか? というところなんですけれども。
CMディレクター: どっちだっていいんだよ、そんなの! 関係ないんだから、そんなものは! 時間がないんだよ。 ボブさん。 ね、だからもう早く、テンションあげて。カメラ見て。カメラ目線で。ゆっくりと。ね、パッションだよ。目にはパッション。わかった?
日本人通訳: Right side, and uh, with intensity. Okay? (右からです。集中して。よろしいですか?)
Bob: Is that everything? I mean it seems like he said quite a bit more than that. (それだけ? 彼はもっといろいろ言ってるように思ったんだけど)
CMディレクター: あなたの言ってることはウィスキーのことだけじゃないんだから。わかる? 古い友達に会うように。やさしく、Gentlyにね。そして心からわき上がってくるテンション。それを忘れちゃダメだよ。
日本人通訳: Like an old friend, and into the camera. (古い友達のように、カメラを見てください)
Bob: OK.
日本人がアメリカの法廷で証言する場合、母国語である日本語での証言が認められているため、通訳を介しての証言となるのだが、ここで気をつけなければならないのは、「尋問(英語)→和訳→回答(日本語)→英訳」の過程で生じる”ズレ”である。全く違った文化背景から成り立つ2つの言語間では、 当然のように起きる問題だ。

